自転車事故の賠償金は高額になりやすい
「自転車は自動車と比較してスピードが遅いため、大きな事故にはならない」というイメージを持つ方もいるかもしれませんが、事故の相手や状況次第では、高額な賠償責任を負うリスクがあります。
とくに、自転車を走行中に歩行者と衝突すると、歩行者が大ケガをする可能性があります。スマートフォンを見ながらの運転や一時停止無視など、ちょっとした不注意が大きな事故につながるため、注意が必要です。
事故の結果、被害者が寝たきりになったり、命を落としてしまったりすれば、1億円近い賠償金の支払い命令が出ることもあります。
歩行者との事故では自転車側の責任割合が多い傾向
道路交通法上、自転車は自動車と同じ車両の一種となるため、車両として交通ルールを守らなければなりません。
交通事故の賠償金は、事故の状況や当事者双方の過失割合などによって金額が決定します。
過失割合とは、事故の被害者と加害者にそれぞれどのくらい責任があるかを割合で表したものです。
被害者にも一定の過失が認められた場合、被害者の過失分が加害者の負担する損害賠償額から差し引かれることとなります。歩行者との事故の場合、自転車側の責任割合が多くなることが多く、賠償額の負担も大きくなる傾向があります。
自転車事故の賠償金の内訳例
一口に賠償金といっても、その中身は幅広いことが特徴です。実際に請求される金額は、被害者のケガの程度や後遺症の状況によって異なります。
自転車事故の賠償金の主な項目は、以下のとおりです。
- 治療費・通院費
- 慰謝料
- 休業損害
- 逸失利益
- 物損損害
- 葬儀費用・死亡慰謝料
それぞれについて詳しく解説します。
治療費・通院費
事故によって被害者がケガをした場合、治療費や通院費は加害者側の賠償責任となります。入院費・手術費・薬代・リハビリ費用など、治療に必要な費用全般を賠償しなければなりません。入院や手術をするほどのケガではなくても、頻繁に通院することになれば金額は膨らんでいきます。
また、ケガの状態によっては、自力で通院することが難しい場合もあるでしょう。通院にあたって公共の交通機関や状況によりタクシーを利用した場合は、交通費も賠償することになります。
治療費や交通費は一見すると少額に思えるかもしれませんが、通院期間が数カ月〜数年に及ぶ場合、合計すると高額になることも珍しくありません。
慰謝料
事故による精神的苦痛に対して支払われるのが慰謝料です。慰謝料は、主に以下の3種類があります。
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
- 死亡慰謝料
入院や通院をした期間に応じて支払われる「入通院慰謝料」に加え、後遺障害が残った場合には「後遺障害慰謝料」が発生します。「死亡慰謝料」は被害者の方が亡くなったときに支払われ、受け取ることができるのは法的な相続人です。
後遺障害は、症状の重さによって1〜14等級に分類され、等級ごとに金額の相場が設定されています。後遺障害の等級が重いほど慰謝料の金額も高くなり、日常生活や仕事に大きな支障が出る場合は、労働能力の低下に伴う逸失利益が加わるため賠償額全体が大きくなります。
なお、死亡慰謝料については後ほど詳しく解説します。
休業損害
休業損害とは、交通事故の影響で仕事を休まざるを得なくなった結果、減少した収入を補償するものです。治療のために休業したぶんだけでなく、通院のために遅刻や早退をして収入が減った場合も対象となります。
会社員だけでなく、自営業者やパート・アルバイトの場合でも、事故による収入減が認められれば請求される可能性があります。
休業損害と慰謝料は混同されがちですが、慰謝料は交通事故でケガをしたことによる精神的・肉体的苦痛に対する補償であって、別のものです。ケガの程度によっては長期間の休業が必要となり、休業損害の金額が積み上がることがあります。
逸失利益
逸失利益とは、事故がなければ将来得られたはずの収入のことです。逸失利益には「後遺障害逸失利益」と「死亡逸失利益」の2つがあります。
後遺障害逸失利益とは、事故により後遺症が残ったことによって得られなくなった収入のことです。死亡逸失利益は、事故で死亡した被害者が生きていれば将来得られたはずの利益のことを意味し、遺族に対する補償になるものです。
逸失利益の金額は被害者の年齢や職業、収入によって大きく異なりますが、若年層や働き盛りの世代の場合、数千万円規模になることもあります。
物損損害
人身損害だけでなく、物に対する損害も賠償の対象となります。自転車事故における損害には人身損害と物損損害の2種類があり、物損損害とは、事故によって物が壊れたり損傷したりしたことによる損害のことを指します。
自転車事故では、「衝突時の衝撃で相手の自転車が壊れた」「スマートフォンなど、相手の携行品が壊れた」「建物の一部を破損した」などの物損も想定されます。
修理に必要な費用や買い替えの費用を負担する必要があります。自転車事故の場合でも、店舗の設備を壊してしまったり、高級車を傷つけてしまったりすれば、賠償額が高額になるケースがあります。
葬儀費用・死亡慰謝料
死亡事故では、葬儀費用や死亡慰謝料も賠償金に含まれます。これに加えて被害者が将来得られたはずの収入を補償する逸失利益が加わるため、賠償額は非常に高額です。
死亡慰謝料には「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準」の3つの算定基準があり、それぞれ相場が異なります。加害者が交通ルールを無視していた場合など、加害者の過失が大きいと認められた場合は死亡慰謝料が増額されることもあります。
なお、死亡慰謝料は死亡した本人への慰謝料だけではありません。残された家族に対する慰謝料も認められており、被害者本人が受けた苦痛とは区別して考えられます。
自転車事故の高額賠償の事例
ここまで説明してきたとおり、自転車事故で相手にケガをさせたり物を壊したりした場合、賠償金の支払いを命じられることがあり、場合によっては高額になります。「自転車だから大丈夫」との考えは危険です。自転車に乗ることは、常に事故のリスクと隣り合わせであることを認識する必要があります。
ここでは、過去に起きた自転車事故の高額賠償の事例を紹介します。
歩行者が死亡した事故
”「男子高校生が、夜間、イヤホンで音楽を聞きながら無灯火で自転車を運転中に、パトカーの追跡を受けて逃走し、職務質問中の警察官(25歳)と衝突。警察官は、頭蓋骨骨折等で約2カ月後に死亡した。(高松高等裁判所、2020年7月22日判決)」”
引用:一般社団法人日本損害保険協会「知っていますか?自転車の事故~安全な乗り方と事故への備え~」
この事例の賠償金(判決認容額)は、9,330万円です。被害者が死亡していることや、加害者側の過失が大きいことなどから、高額な賠償金となっています。
自転車も車両の一種であるため、道路交通法に定められるルールを守る必要があり、ルール違反があれば過失割合が高く判断される傾向があります。
なお、自転車保険などの保険に加入していた場合も、免責事項に該当すると個人賠償責任補償の対象外となる場合もあります。
重度後遺障害が残った事故
”「男子小学生(11歳)が夜間、帰宅途中に自転車で走行中、歩道と車道の区別のない道路において歩行中の女性(62歳)と正面衝突。女性は頭蓋骨骨折等の傷害を負い、意識が戻らない状態となった。(神戸地方裁判所、2013年7月4日判決)」”
引用:一般社団法人日本損害保険協会「知っていますか?自転車の事故~安全な乗り方と事故への備え~」
この事例の賠償金(判決認容額)は、9,521万円です。加害者は小学生ですが、未成年であっても事故の責任からは免れることができません。ただし、民法では未成年者に賠償請求ができるのは、未成年者に責任能力がある場合とされています(民法712条)。
未成年者に責任能力がない場合、代わりに保護者が責任を負う場合もあります。
自転車事故に備える自転車保険の加入義務化が進んでいる
全国的に自転車保険の加入を義務または努力義務とする自治体が増加しており、約7割の自治体で義務化が進んでいます。au損保が行った2025年度の調査では、自転車保険への加入率は全国で64.2%です。
義務化の対象には通勤・通学だけではなく、日常利用の自転車も含まれます。義務化の背景には、自転車事故が発生した際の被害者の救済と加害者の経済的負担の軽減という意図があり、被害者保護に重点がおかれていることが特徴です。
なお、2026年3月時点では、条例で自転車保険の加入を義務または努力義務としている自治体であっても、未加入の場合の罰則は設けられていません。
関連ページ:「au損保、自転車保険加入率を調査」
関連ページ:「『自転車保険の加入義務化』ってなに?」
自転車保険に加入することのメリット
自転車保険は、自転車事故を想定した補償内容が中心となっており、万が一加害者になった場合の賠償責任に備えやすい点が特徴です。
事故の被害者が死亡したり重度後遺障害が残ったりした場合、賠償金の額は高額になる傾向があります。万が一、賠償金を支払えないと、自宅や給与を差し押さえられる可能性があります。こうした高額補償に備えられる点はメリットだといえるでしょう。
また、自転車保険の中には示談代行サービスが付帯している保険もあります。自分自身で相手側との示談交渉をすべて行うのは大きな負担となるでしょう。保険加入によって示談交渉の負担を軽減できることも大きなメリットです。
自転車を安心して楽しむために自転車保険で備えよう
自転車事故の賠償金の内訳や実際に起きた事例などについて解説しました。
自転車は誰でも気軽に利用できる乗り物ですが、道路交通法上は車両の一種とされ、事故が起きれば交通事故として扱われます。
自分が加害者となった場合、事故発生時の状況や相手のケガの状態によっては高額な賠償金が請求されることがあります。自転車を安心して楽しむためには、自転車保険に加入して備えておくことが大切です。
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